林さんちの楽しい社長日記「あぐらぐち物語」
2015年04月08日
お笑い系百姓の生活・農業

種籾は安全な温湯で消毒します・温と言いながら結構熱いです

 温湯と書いて「おんとう」と読みます。


 今日は、4回目の種籾の消毒の日です。でもいつものエコホープ(動画)の消毒ではなくて今日は「温湯(おんとう)消毒」(動画) しました。

温湯消毒器、、これで種籾の消毒をします。
温湯消毒器

 林さんちは、種まきを5回に分けています。そのうち4回は、エコホープという天然由来成分の消毒液に浸けて消毒をします。そして1回を温湯消毒をしています。この1回は、4月15日に種まきをする無農薬栽培米「女王さまミルキークィーン」「超普通じゃないコシヒカリ」と自然栽培米「宇宙米」のために温湯消毒をするためです。エコホープは、1キロ約1万円を12キロも使用するのでコストがかかります。だから全部を温湯消毒したいところです。しかし1回約300キロの種籾を処理するために2~3人で3時間かかって行うので時間がもったいないのです。春先は、ただでも作業が錯綜するのでなるべく時間短縮をしたいのです。


この温湯消毒は、温と言う割には60℃あるのでとても熱いです。なめて手袋しないと火傷します。湯槽にモノを落として手を入れて拾おうとしたことがありますが熱くて無理でした。あの熱湯芸人のお湯が60℃と言われていますが実は相当に熱さです。この60℃に10分間浸けると種籾のバカ苗菌やその他の病原菌も死にます。さらに発芽阻害物質のアブシジン酸も無力化される優れものです。だから温湯消毒をすると芽が良く出るので催芽は、通常の二晩ではなく一晩で行います。そうしないと芽が出過ぎてモヤシになります。


さらに10分間浸けると言いながら実は、タイマーを8分間でセットします。と言うのは、まずお湯が良く染みるように2回ほど上げたり下ろしたりしてからタイマーオンまでの時間。そしてタイマーが鳴ってからお湯を切るための時間。そして冷却水に入れて種籾の中まで冷えるまでの時間。この分を計算して8分間にしています。これを10分タイマーでやると浸け過ぎて種籾が煮えてしまう可能性があるのです。そうなると発芽障害が出ます。初期の頃は、このタイムラグや冷却が不十分だったりで煮えたトラブルがよくありました。


 林さんちが使用している500リットル水槽の温湯消毒器は、約40数万円ほどですが年に数回しか使わない機械なので野々市市稲作受託組合で共同購入してJAののいちの倉庫で作業をさせてもらっています。この方式は、結構大きな機械なのでとても助かっています。大きな農業法人では、自社で購入されていると思いますがチリも積もれば山となるとこんな1年にロクに使わない農機具で倉庫が埋まっているのが農家の現状でもあります。JAによっては、温湯消毒の処理場を持っていて一手に作業を引き受けてくれるところもあるようです。というのも化学農薬を使用した消毒の場合、逆にその廃液処理設備の方が高額になる場合があるかららしいです。それならいっそのこと環境にもコストにも優しい温湯消毒がベストです。


 でもエコホープも温湯消毒もしない農家さんは、種籾にすでに消毒薬を粉衣された種籾を購入してそのまま水に浸水することによって自動的に消毒される方法をとっています。でもその消毒液の処理は、果たして適正に行われているかははなはだ疑問です。と言うのも林さんちも昔は、種籾の消毒は、化学農薬で行っていました。物心ついた頃には、種籾は「臭い」「色の付いた液体」に浸けるものだと思っていました。そしてこの臭い色付きの消毒液にある一定時間浸した後にこの消毒液体は、そのまま用水に流していました。化学農薬がそんなに害とは思っていない「単なる便利な薬品」としか思っていない無知な時代でした。しかし30年ほど前に就農してからは、やはりこれはおかしいと考えるようになりました。


 そこで安全な消毒液を探し試し始めました。最初は、HB101が効くと言われて2年ほど使用しましたがウソでした。そして2年ほど酸性水を作る機械を30数万円で購入して浸けてみましたが大量の水を作り切れずに失敗。失敗する度にそれまでまったく気づかなかったことが起きました。まず種籾は、長く水に浸けて置くものだと思っていたのですが化学農薬で消毒しないで置く段々とドロドロの臭い液体が出て来ました。どうも種籾に付いていた雑菌が繁殖したものだと気づきました。つまり今までは、雑菌を化学農薬が抑えていたので気づかなかったのです。そこで種籾を浸けた水を頻繁に換え始めました。


 ところが種籾の出芽率悪くて苗の成長も良くありません。まあ以前からあまり良くなかったのですがさらに良くありません。原因は、その「ドロドロした臭い液体」のせいと思っていました。でもある時あまりに酷いので関係機関に診てもらったらそれは「発芽阻害物質アブシジン酸」のせいではないか?と言われました。「何?そのハツガソガイって?」と思いましたがすぐに分かりました。種子は、適切な時期に芽が出ないといけないのである程度の発芽阻害物質を持っているのです。種籾のその発芽阻害物質がアブシジン酸でした。


 となると化学農薬を使わないとなるとその発芽阻害物質を洗い流してあげないといけません。ただ水槽の水を換えただけでは効果がありません。そこで頑張って1日おきに全ての種籾を袋ごとも揉み洗いするようになりました。このことを林さんちでは「シャブシャブ」と呼んで頑張っています。それと同時に、JAから天然由来成分の消毒液が開発されたので使わないかと言われました。苗でとても苦労していたのでワラをも掴む思いでまだラベルも無いようなその消毒液「エコホープ」を使い始めました。このエコホープは、アオカビの一種で他の病気を抑えるという資材です。でも発芽阻害物質には効きません。それでも今までの臭い化学農薬の消毒に比べてずいぶん爽やかな作業になりました。効果も緩やかでしたが苗箱への種籾播種量も以前の1箱当たり180gから110gとかなり減らしたので密集度が下がって病気のリスク自体が低くなったので十分でした。


 そしてエコホープ+シャブシャブで種籾の浸水を始めたところ一気に発芽率がアップ。そうなるとそれまでは、芽が出ないので催芽(動画)でたくさん芽と根を出していましたが出過ぎるようになったのです。と言うか今までは、モヤシのように芽と根を出して種まきをしたのでかえって種まき機に詰まって精度を落としていくという悪循環を繰り返していました。でもエコホープ+シャブシャブで規定のハト胸状態にしっかりと芽と根が揃って出るようになったのです。これで種まきをすると見事に芽が揃うようになりました。


 そしてさらに良い方法として温湯消毒が知られるようになったのです。でも最初の頃は、お湯にする市販の機械が無くてボイラーを流用したりお湯を沸かして使ったりと先進農家さんは、苦労したようです。しかし60℃という湯温を安定して作れずに消毒出来なかったり種籾を煮てしまい始発芽不良を起したりと大変でした。かつて温度計が日本に伝わるまで日本酒の殺菌「火入れ」は、杜氏さんの勘で行っていました。この火入れが不十分だと日本酒が腐ります。火入れをし過ぎると味が損なわれます。だから当時に酒どころでは、それが出来る優秀な杜氏を取り合ったほどでした。その技術を持った優秀な杜氏の一団が能登杜氏で全国の酒蔵で腕をふるっていたのです。そんな微妙な温度調節が温湯消毒の成否のカギでした。


 林さんちでも餅つき用のボイラーを利用して60℃を保ちながら温湯消毒を無農薬米用に実験してみました。かなり大変でしたがわずかな種籾量だったので上手く行きました。でも大量にやるのは大変だなと感じていました。すると温湯消毒器が市販されたのです。でもめったに使わない機械だしなぁ~と二の足を踏んでいたら6年前に野々市市稲作受託組合で購入することになってラッキーでした。それからは、安心して温湯消毒をしています。今年も素晴らしい苗になりますよ~に(o^-^o)

お湯に浸してそしてお湯を切って冷却の繰り返しです。
温湯消毒